●大阪市内の街中に築35年で鉄骨鉄筋コンクリート造14階建のマンションの1戸の専有部分のスケルトンリフォーム
既存部分はは4DKで各室に窓が設置されているけれど風の通り道がない間取り。マンション住まいをしていた経験から、住まい手にとっては風の通りが必要と感じていました。
風の通りを得るには、既存の間取りをすべて取り払うスケルトンリフォームが最善と考えて取り組みました。
●大胆なワンルーム的な空間構成と無駄空間を加えることで住まいの豊かさを設計する
居間と寝間を明確にゾーニングした構成です。
マンション設計のよくある考え方で部屋の面積を大きくするために極力省スペース化している無駄空間とされている廊下をこの計画では積極的に設けています。歩く距離を長くとることで奥行を持たせ広がりを錯覚させる効果を狙っています。
縁側もマンション設計では無駄空間に当たります。しかし、この空間があるからこそ、この家のデザイン的にも断熱効果を上げるという機能的にも向上させるのです。
「寝て一畳、立って半畳」の言葉通り、自分が同時にいろんな部屋に居るわけはないので、大きく機能で空間を分けるだけで快適にできるのではないか、すなわち寝るところとくつろぐところが分かれていればよいという結論に至りました。 居間にはジョージ・ナカシマのデザインしたウォールナットの家具を将来的に置こうと決めて、その色調に合わせた色調にしています。木質のインテリアで陥りがちな山小屋のような雰囲気ではなく、適材適所で木の色を分けました。単色にするとボリュームが多くなりカラーバランスが重くなるので、2色程度の色分けでバランスを分散させました。
夫婦とも本が好きなので本が多いので書庫をるくろうかとも考えましたが、限られたスペースを考えるとそのような個室はつくれない。本をしまい込むのではなく積極的に見せて書架が居間の中心となるアイテムとしてとらえました。本のサイズに合わせて区分して、棚板はすぐにつぶれないような厚みにして、さらに書架に加えてちょっとしたテーブルや腰掛、TVボードを兼ねるようにデザインしました。
キッチンと居間を隔てるため収納力のをもった長さ3mの特注食器棚をデザインしました。存在感があるのでできるだけ軽減したいと考え、ミラー張りにしました。一見奇抜ですが、周囲の風景を映し出すので奇抜ではなくむしろ空間に溶け込んで重さを感じさせません。
日本の住まいには畳の間で構成されていました。その畳の間では食事をしたり、くつろいだり、寝間としたりとユニバーサルな空間として活用されていました。 今回の設計でもこの考え方を踏襲して、個室として扱うことができたり、それ以外のときはリビングの延長として広がりをもたらします。 リビングと廊下は障子で仕切りすべて引き込むことができます。その障子の取り合いには柱を設けました。この柱があることで、奥行きが認知できて広がりを感じることができます。一見邪魔者のように扱われがちですが、同じ面積でもある場合とない場合では意外と違うものです。 また「柱のキズ」をつけることができるので子どもの成長の記録として一役買っています。
和室をリビングに隣接させるのはよくある手法ですが、さらに玄関に隣接させ廊下をうまく使い障子を閉めると独立性を保った客間にもなります。間取りによってハレの間にもケの間にもなる和室ならではのユニバーサル空間の特性が現れます。 客を招く間取りとしての和室―客とは誰でしょう?来客はもちろん、親の介護に、子ども部屋に、はたまた自分の臨時の個室として。ハレとケにも捉え方はさまざまです。
玄関を開けてすぐに廊下が見えるマンションのよくある風景を離れるために壁を設けました。その壁は経年変化する黒皮鉄の板にすることで時間を感じることができるのと同時に、木と白を基調とした色調にアクセントとして引き締め、玄関の気持ち的な切り替えを同時に果たしてくれています。
寝室には床材を変えることでLDKと変化をつけました。LDK床のナラ材と変わり大きな柄の構造用合板を用いることで空間と気分にON/OFFが付けられます。また将来的にスペースを仕切る工事がしやすいようにも配慮して選定しています。 収納スペースには扉ではなくカーテンを用いました。開閉時の省スペース化とフルオープンにしやすい機能性を併せもった点が採用のポイントです。 今回のリノベーションでは既存図面に現れていなかった配管が出てくるアクシデントもありましたが、それをまたインテリアの一部として積極的に捉えています。
街中の中古マンションは周りもマンションが多いので窓の外は絶景ではありません。また古いマンションなので窓は腰窓でバルコニーへ出るためには何らかの段差がないと困難です。この二つの問題点を解消するために考えた結論が縁側のような段差を設けること。そしてその段差を活かして間接照明を設けました。 また外壁側の壁は断熱性能の向上と見た目の面白さを考えて木毛セメント板にしました。障子で仕切られたことで空気層が生まれさらなる断熱効果が得られ、障子を開けた時のテクスチャの肌理の違いが空間に奥行を得てくれました。