著者:やまぐち建築設計室(建築家・設計事務所/奈良県)
2026-01-16更新
- ホテルライク,リラックス,寛ぐことが出来る家,居場所のある家,家族,過ごしやすい家,建築家,設計事務所と建てる家
住まいの心地よさは、
広さやデザインだけで決まるものではありません。
人が本当に回復できるかどうかは、
視線・音・情報量が抑えられ、
思考が止まれる「居場所」があるかで決まります。
本記事では、
回復できない家に共通する条件と、
たった1㎡で暮らしと人生を
静かに立て直す設計思想を、
建築家の視点から掘り下げます。
回復できない家には、
共通点があるということ。
1㎡の居場所でも、
人の人生を左右する理由・・・・・。
段差と天井の変化で視線と動きを緩やかに制御した、和モダン×ホテルライクなLDK空間。過度な情報量を抑えた設計により、ソファに身を委ねるだけで思考が鎮まり、心が回復していく住まいの一角。
※広さや豪華さではなく人が行動も思考も
止まれるように整えられた空間。
段差と余白が暮らしの回復点をつくります。
家にいるのに、
なぜか疲れが抜けない。
休日に一日家で過ごしたはずなのに、
月曜日の朝、すでに消耗している。
睡眠時間は足りている。
間取りも気に入っている。
性能や設備にも大きな不満はない。
それでも、
心が回復していない。
この感覚は、
決して珍しいものではありません。
そしてその原因は、暮らし方や
性格ではなく、
住まいのつくり方にあります。
「回復できない家」は、失敗住宅ではない。
最初に、
とても大切なことをお伝えしておきます。
回復できない家は、
欠陥住宅でもなければ、
設計ミスと断じられるものでもありません。
むしろ多くの場合、
・間取りは合理的
・デザインは洗練されている
・設備も十分
いわゆる「良い家」です。
ただ一つ、
決定的に欠けているものがある。
それが、
人が回復する条件としての「居場所」です。
人は「止まれる環境」でしか回復しない。
心理学の分野では、
人が本当に回復するためには
次の三つが必要だと言われています。
判断しなくていい
役割を演じなくていい
警戒しなくていい
ところが、
回復できない家では、
これらがすべて満たされていません。
家の中にいても、
人はずっと「動き続けている」。
頭の中では、
・次に何をするか
・これを終えたら何か
・あれを忘れていないか
そんな思考が止まらない。
空間が、
人を止めてくれないのです。
回復できない家の共通点①
「背中が守られていない」
回復できない家の多くで見られるのが、
背中が無防備な配置です。
・ソファの背後が動線
・背中側から人が通る
・背後に大きな開口や出入口がある
この状態では、
人は無意識に緊張します。
無意識ですから自覚はありません。
けれど、
身体は常に警戒しています。
「くつろいでいるつもりなのに疲れる」
そんな家の正体は、
この背中の問題であることが
非常に多くあります。
ソファの種類や選択にもよります。
回復の1㎡では、
背中が必ず「守られている」必要があります。
これは、
感性ではなく、
身体の反応の話です。
回復できない家の共通点②
「視線が多方向に抜けすぎている」
開放的な家。
視線がよく抜ける家。
明るく、広がりのある空間。
一見、
とても心地よさそうに思えます。
しかし、
回復という観点では、
視線が多すぎることが
かえって負担になる場合があります。
・窓が多い
・抜けが複数方向にある
・常に景色が変わる
人の脳は視界に入る情報を
無意識に処理し続けます。
視線が定まらない空間では、
脳は休めません。
回復する1㎡では、
視線の行き先は一つで十分です。
迷わない視線。
判断を求められない視界。
これが、
脳を休ませる条件です。
回復できない家の共通点③
「音が減衰せず、直接届いている」
音の問題は、
非常に見落とされがちです。
・キッチンの作業音
・家族の足音
・外部の生活音
完全な無音が必要なわけではありません。
問題なのは、
音が直接届くことです。
回復できない家では、
・音源と距離が近い
・遮る要素が少ない
・向きが考慮されていない
その結果、
常に「気配」が入り込んできます。
回復の居場所には、
音が直接届かない
位置関係としての設計が必要です。
これは、
平面図だけでは判断できない、
建築家の設計領域です。
回復できない家の共通点④
「情報量が多すぎる」
人は、
情報の中では回復できません。
・物が多い
・色が多い
・線が多い
・用途が多い
どれも便利で、
どれも正しい。
しかし、回復という視点では、
すべてが刺激です。
回復の1㎡では、「見えるもの」を
意図的に減らします。
収納の中身。
生活感。
役割を思い出させる道具。
それらが視界に入らないだけで、
脳は驚くほど静まります。
回復できない家の共通点⑤
「空間に名前がつけられている」
書斎。
ワークスペース。
ヌック。
スタディコーナー。
名前があること自体が
悪いわけではありません。
しかし、
回復の場所に
名前を与えた瞬間、役割が生まれます。
役割が生まれた瞬間、
人は無意識に
「何かをしよう」とします。
回復は、何かをしないことで起こる。
だから、回復の1㎡には
名前をつけない。
ただ、そこに座れる場所。
それだけで十分です。
回復できる家は「止まれる家」
ここまで挙げてきた
回復できない家の共通点は、
すべて一つの言葉に集約できます。
止まれない。
動線が止まらない。
視線が止まらない。
音が止まらない。
思考が止まらない。
回復できる家とは、
「止まれる家」です。
そして、
止まるために必要な空間は、
1㎡で足ります。
なぜ、この1㎡を必要とするのか
判断の量が多い人ほど、
回復が必要です。
・仕事上の決断
・人との距離感
・責任の重さ
これらを日常的に背負っている人ほど、
家の中で
「何者でもなくいられる場所」を
必要とします。
豪華な空間よりも、
広さよりも、
回復できること。
長く豊かな時間を生きている人ほど、
住まいに求める価値は、
静けさへと収束していきます。
回復の1㎡が、人生に与える影響
回復できる場所を持つと、
人は変わります。
・物を衝動的に買わなくなる
・人付き合いの距離が整う
・無理な予定を入れなくなる
これは、
空間が人の行動を導いているからです。
快復の設計とは、
人生を静かに誘導する行為です。
設計でできることは、
まだまだ多い・・・・・。
私たちは、
住まいを「暮らすための器」だけではなく、
人が回復し、整い、
次の一歩を踏み出すための
環境として考えています。
目立つ設計よりも効いてくる設計を。
広さだけよりも、止まれる場所を。
そして必要な静けさを。
もし今、回復できていないと感じたら
今日、ご自宅を
ゆっくり見渡してみてください。
あなたが何も考えずに
呼吸できる場所は、ありますか?。
もし、
ひとつも思い浮かばなければ。
それは失敗ではありません。
これから設計すればいい。
1㎡でいい。
椅子一脚分でいい。
回復の居場所は、
人生を立て直す起点になります。
暮らしと人を支える環境として
住まいの設計を行っています。
人生を確実に支える建築。
そのための1㎡という考えかたを。
このブログが、
皆さんの住まいと暮らしを見直す
キッカケになれば幸いです。
○関連blog
ほどよい静けさと距離感が、暮らしの質を決める・判断力と人間関係を整える住まいの設計思想
https://www.y-kenchiku.jp/blog_detail710.html
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