家族の距離が、暮らしの質を決めている─建築家が読み解く「心が荒れない住まい」の設計思想

やまぐち建築設計室

著者:やまぐち建築設計室(建築家・設計事務所/奈良県)
2026-01-17更新
家族の距離が、暮らしの質を決めている─建築家が読み解く「心が荒れない住まい」の設計思想


住まいは、家族の距離感や心の状態を、

静かに左右します。
人には誰しも

近づかれると疲れる距離=パーソナルエリアがあり、

その扱い方次第で、

暮らしの質は大きく変わります。



やまぐち建築設計室では、

間取りやデザインの前に、

人と人との距離、

視線、気配、余白を丁寧に読み解き、

心が荒れにくい住まいの設計を

考えています。




住まいを、

人生を整えるための環境として考える

それが私たちの建築思想です。



家族の距離が、

暮らしの質を決めている部分もある。



パーソナルエリアから考える、

心が荒れない住まいのつくり方。



家は、安心できる場所であるはずです。
けれど現実には、

こうした声を耳にすることがあります。



「家にいるのに、なぜか落ち着かない」
「家族仲は悪くないのに、気が休まらない」
「理由は分からないけれど、常に疲れている」



これらは、性格の問題でも、

関係性の問題でもない場合が多く

その背景にあるのが、

人と人との距離感、
そしてそれを無意識に

左右している住まいの空間構造です。



人には誰しも、

時間帯や精神状態によって

「近づかれると不快になる距離」がある

ということ。



人は、自分の身体のまわりに、
目に見えない「心理的な領域」を

持っています。



これを
パーソナルエリア

パーソナルスペース/対人距離と呼びます。



これは、
他人が無断で侵入すると、
理由もなく不快や緊張を感じる空間

の事を指します。



・満員電車で感じる息苦しさ。

・公共のベンチで、

 隣に座られたときの違和感。
・会話中、無意識に

 一歩下がりたくなる瞬間。



それらはすべて、
パーソナルエリアが

侵されているサインです。



距離には「段階」があるという

エドワード・ホールの理論



アメリカの文化人類学者
エドワード・ホールは、
人と人との距離を、

次の4つに分類しました。



密接距離(親密距離)

約45cm以内

恋人・配偶者・幼い子どもなど、

極めて親しい関係



個体距離(パーソナル距離)

約45cm〜120cm
友人・親しい同僚との自然な会話距離



社会距離(社会的距離)

約120cm〜360cm
仕事・フォーマルな場面での距離



公衆距離

約360cm以上
講演・集会など、不特定多数への距離



この距離感は、
関係性・文化・年齢・性別

状況によって、いくらか変化します。



特に日本人は、
欧米文化圏と比べて
パーソナルエリアが

広い傾向があると言われています。



家の中でも、

人は「距離」によって疲れるということ。

多くの人は、
パーソナルエリアの話を
「外の世界の話」だと思っています。



しかし実際には、
家の中こそ、

距離感の影響が最も大きいとうこと。

なぜなら、
家は「長時間・毎日」使われる

場所だからです。



職場や公共空間であれば、
多少の違和感は我慢できます。



しかし住まいでは、
それが毎日、

何年も積み重なっていきます。



家族だからといって、

ずっと距離が近くて良いわけではない。



よくある誤解があります。



家族なんだから、

距離は近い方がいい・・・。



一体感のある間取りが、

仲の良い家族をつくる。



これらは、半分だけ正解です。



確かに、
まったく距離が取れない住まいは、
孤立を生みます。



しかし同時に、
距離が近すぎる住まいは、

無意識の疲労を生みだします。



常に視線が合う。
常に気配が伝わる。
常に声が聞こえる。



心理学的には
軽い緊張状態が持続している

状態です。



なぜ「理由もなくイライラする」のか?



設計前での

家族関係のご相談で、
こんな言葉を聞くことがあります。



別に大きな不満はないんです
でも、家にいる時には

イライラすることが多いんです。



この場合、
問題は感情ではありません。



以前からブログに書いている

目に見える物の状態の事も

ありますし、

もう一つの可能性としては

距離の問題です。



人には「喜怒哀楽」があります。



・仕事で疲れた日

・誰かと些細な事でもめた日

・上手くいかなかった日



気持はどうですか?

どんな状態で家に居たいですか?



・密接距離に入りすぎている

・個体距離が確保できていない

・逃げ場がない

・一人に戻れる場所がない



この状態では、脳も気持ちも

休まるタイミングがありません。



結果として、
小さな音、ちょっとした言葉に
過敏に反応するようになります。



良い住まいは

「関係を近づける」のではなく

「関係を守る」ということ。



やまぐち建築設計室では、
家族の距離感をこう捉えています。



仲良くするために

近づけるのではない。



壊れないために、

離れられるようにする。



距離が取れるから、
また近づける。



これは、
心理学でも非常に重要な考え方です。



距離は「壁」だけで

生まれるものではないということ。



距離と聞くと、
多くの人は壁や部屋数を思い浮かべます。



しかし実際には、
距離はもっと繊細な要素で決まります。



・視線の角度

・床レベルの差

・天井の高さ

・光の方向

・音の抜け方

・家具の配置

・動線の交差



たとえば、
同じリビングでも、

・視線が真正面でぶつかる配置
・視線が少し外れる配置

この違いだけで、
心理的距離は大きく変わります。



和モダン住宅が「落ち着く」と感じる理由

和モダンの住まいに、
「なぜか落ち着く」と感じる人は多い。

その理由は、
意匠だけではありません。



和の空間には、
距離をやわらかく調整する仕掛けが

多く含まれています。



・障子や格子による「気配だけ伝わる境界」

・軒や縁側による「内と外の緩衝領域」

・床の間や余白による「視線の逃げ場」



これらはすべて、
密接距離と個体距離を
自然に切り替える装置です。



現代住宅に必要なのは「可変する距離」

現代の暮らしは、
かつてよりも情報量が多く、
刺激に満ちています。



だからこそ、住まいには
距離を固定しない柔軟さが

求められます。



・集まるときは集まれる

・離れたいときは、そっと離れられる

・見守れるけれど、干渉しない



この切り替えができる住まいは、
長い時間をかけて
家族関係を支えていきます。



子どもにとってのパーソナルエリア

子どもにも、
立派なパーソナルエリアがあります。



大人よりも
言語化が苦手な分、
空間の影響を強く受けます。



皆さんも幼いころを

思い出してみてください・・・・・。



・常に見られている

・常に声をかけられる

・一人になれない



この状態では、
集中力や自律性が育ちにくい。



一方で、



・見守られている安心感

・そっとしておいてもらえる距離



このバランスが取れた住まいでは、
子どもは自然と落ち着きます。



夫婦の距離も、設計で変わる・・・・。

夫婦関係もまた、
距離感の影響を大きく受けます。



近すぎると、
言葉が荒れやすくなる。



遠すぎると、
会話が減る。



良い住まいは、
会話が生まれやすく、

衝突が長引きにくい距離をつくります。



「話し合いのための場所」が
自然に用意されているということ。



建築家ができることは

暮らしと関係性の「距離を読むこと」。



やまぐち建築設計室が
設計の初期段階で大切にしているのは、

「何畳または何帖必要か」よりも
「どのような距離が必要か」という視点です。



・どこで密接距離になるか

・どこで個体距離が保てるか

・どこで社会距離に切り替わるか



これを読み違えると、
どれだけ高性能で美しい家でも、
暮らしは息苦しくなります。



上質な住まいとは

「距離が丁寧に扱われている家」。



高級住宅やおしゃれな家に限らず

暮らしやすい家に
共通しているのは、

派手さではありません。



各家庭や生活に応じた距離の扱いが、

非常に丁寧だという点です。



・近づきすぎない

・でも、孤立しない

・見えるけれど、触れない

・気配はあるけれど、侵さない



この絶妙な距離感が、
「品のある空間」をつくります。



住まいは、家族の感情を守るインフラ。



住まいは家族の感情が

ぶつかる場所でもあります。



だからこそ、
感情が荒れにくい構造が必要です。



・人の努力や我慢だけに頼らない。

・環境が先に整っていること。



距離が整うと、暮らしが変わる

距離が整った住まいでは、



・声を荒げる必要が減る

・無意識の疲労が減る

・一人時間が肯定される

・家族との時間が、素直に楽しくなる



これは、
住まいが人を

教育しているのではありません。

人が本来持っているバランスを、

環境が引き出しているのです。



家づくりは「距離の設計」だという事。

間取りでも、見映えだけのザインでも、
設備でもない。



本質的には、
家づくりは距離の設計です。

人と人。
人と空間。
人と時間。

この距離が整ったとき、
住まいは「ただの建物」から
人生を「支える環境」へと変わります。



暮らしが息苦しいと感じたら・・・・・。



・家にいるのに落ち着かない

・家族との距離に、言葉にできない違和感がある

・住まいを変えたい理由が、はっきりしない



そう感じているなら、
それは間取りと距離の問題かもしれない。



やまぐち建築設計室では、
住まいを「形」ではなく
人の感覚から考える設計を行っています。



距離を読み、
距離を整え、
距離に無理のない暮らしをつくる。



住まいが変わると、
人との関係が変わり、
日常の質が静かに変わっていきます。



今回のblogが、
皆さんの住まいと暮らしを見直す
小さなきっかけになれば幸いです。



○関連blog
ほどよい静けさと距離感が、暮らしの質を決める・判断力と人間関係を整える住まいの設計思想

https://www.y-kenchiku.jp/blog_detail710.html

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