料理の前に、心を整えるという設計
── 和食料理店の「質」は、どこで決まるのか
和食料理店の開業や店舗づくりを考えるとき、
多くの方がまず意識されるのは、
・内装の雰囲気
・素材のグレード
・席数や動線
・コストと回収計画
といった、目に見える要素ではないでしょうか。
もちろん、それらはとても大切です。
しかし、長く選ばれ続ける和食料理店と、
そうでない店の違いは、
実はもう一段深いところにあります。
それは、
料理を口に運ぶ前に、
お客様の心がどのような状態にあるか
という点です。
和食は「満たす」料理ではなく、「整える」料理
和食は、
強い刺激や派手な演出で
記憶に残る料理ではありません。
季節の移ろいを感じ、
素材の声に耳を澄まし、
料理人の所作を味わう。
そうした、
静かな体験の積み重ねによって、
価値が深まっていく料理です。
だからこそ、
和食料理店の空間には、
人の感覚を外へ向かわせる要素よりも、
内側へと戻していく力が求められます。
料理を味わう前に、
すでに心が落ち着いている。
この状態をつくれるかどうかで、
同じ料理でも、印象は大きく変わります。
「少し暗い」は、失敗ではなく意図
今回の空間では、
全体の明るさをあえて抑えています。
均一に照らさず、
視線を遠くへ逃がさず、
不要な情報を削いでいく。
この「少し暗い」と感じる状態は、
人の緊張を解き、
感覚を内側へ向けるための設計です。
過剰に明るい空間では、
人は無意識に周囲の
情報を拾いすぎてしまいます。
一方、
抑制された光の中では、
呼吸が整い、
目の前の出来事に集中しやすくなります。
茶室に足を踏み入れた瞬間、
空気が切り替わる感覚。
和食料理店の入口にも、
あの心理的な転換が必要だと考えています。
カウンターは「席」ではなく「舞台」
和食料理店におけるカウンターは、
単なる客席ではありません。
包丁の音、
湯気の立ち上がり、
料理人の動き。
それらを五感で受け取るための、
舞台装置です。
だからこそ、
カウンターの高さ、奥行き、
料理人との距離感はとても重要になります。
近すぎれば緊張を生み、
遠すぎれば臨場感が失われる。
「もてなす」というより、
そっと寄り添う距離感。
会話を主役にするのではなく、
空気そのものが語る時間を大切にしています。
わびさびとは、削ぎ落とす勇気
わびさびは、
和風に見せるための装飾ではありません。
何を足さないか。
どこで止めるか。
その判断の積み重ねが、
空間の深みをつくります。
黒を基調とした壁、
荒さを残した床、
木・土・石の控えめな使い分け。
どれも、
「きれいに見せる」ためではなく、
時間とともに味わいを
重ねていくための選択です。
流行に左右されにくい空間は、
結果として、
経営の安定にもつながります。
照明は「照らす」のではなく「包む」
和食料理店の照明で大切なのは、
明るさの数値ではありません。
どこを照らし、
どこを照らさないか。
全体は抑え、
手元と器だけを、
そっと浮かび上がらせる。
影があるからこそ、
料理は立体的に感じられ、
余韻が残ります。
照明もまた、
料理を引き立てるための
空間側の所作だと考えています。
店舗の付加価値は「過ごした時間」で決まる
価格や立地、話題性だけでは、
店は長く続きません。
記憶に残る店には、
必ず理由があります。
それは、
派手な演出ではなく、
過ごした時間の質です。
五感が休まり、
呼吸が整い、
料理と静かに向き合える。
リラクゼーションサロンのように、
何かをしてもらうのではなく、
自然と整っていく感覚。
それこそが、
和食料理店にとっての
大きな付加価値だと考えています。
設計とは、思想をかたちにする仕事
やまぐち建築設計室は、
内装を整えるだけの
設計は行っていません。
その店で、
どんな時間を過ごしてほしいのか。
どんな気持ちで帰ってほしいのか。
その想いを丁寧に言葉にし、
空間・動線・光・素材に翻訳する。
それが、
設計の本質だと考えています。
和食料理店をこれから開業される方、
次のステージを考えている
経営者の方にとって、
この文章が
「質の良さとは何か」を考える
一つのきっかけになれば幸いです。
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料理の前に、心が整う空間を。
やまぐち建築設計室
奈良県橿原市縄手町387-4(1階)
https://www.y-kenchiku.jp/
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