著者:アーキシップス京都(建築家・設計事務所/京都府)
2021-08-13更新
新型コロナウィルスが毎日のニュースを賑わせていますが、最近、住宅業界には二つの激震が走りました。
一つは言うまでもなく、輸入木材の在庫ショート「ウッドショック」。
もう一つが2020年10月の施政方針演説における「2050年カーボンニュートラル」、続く今年4月の気候サミットにおける「2030年46%削減」宣言です。
これから家を計画する人には、どんな影響があるでしょうか?
背景をおさらいしておきます。
2015年のCOP21(気候変動枠組条約)パリ協定で、日本は「2030年に温室効果ガス排出量を2013年度比26%削減する」と約束しました。
その方法は、産業、運輸、エネルギー転換、建築・住宅の4部門でそれぞれ目標を設定し、ロードマップ策定、実行するというもの。
それを受けて住宅建築部門の「改正建築物省エネ法」が施行されました。
すでに義務化されていた大規模建築物では、2019年時点で適合率91%と高水準でした。 そこで改正建築物省エネ法で、達成率75%の中規模建築物には適合義務化を定めました。
適合率60~62%に留まる住宅部門は、大手ハウスメーカーには省エネ基準より高度な「トップランナー基準」への適合徹底を課し、戸建住宅では本年4月から施主への「省エネ性能の説明義務化」を課しました。
今年、新築計画をご相談されたお施主様は、すでにお聞き及びの通りです。
その数日後の4月22日、国連の気候サミットにおいて、日本は新たな目標を宣言しました。
温室効果ガス2013年度比26%削減への具体策が動き出してすぐに、次の目標は46%削減へと高められました。
本気で達成するなら、これまでより広範囲に、より強力に、より効果の高い施策が必要になるのは明らか。
全体目標が26%削減だった時、住宅・建築部門では2013年度比CO2排出を40%削減することを求められました。
産業・運輸など全4部門合計の目標が26%→46%削減と削減幅が1.5倍積み増しになったら、住宅・建築部門は1.5倍積み増してCO2排出40%→60%の削減、またはそれ以上が必要となるでしょう。
では新しい目標の前に、以前の目標はどの程度達成されたか。
残念ながら、法施行から間もない現時点では、効果測定は困難です。
法改正の効果を見極める前に次の施策が決まることは確実で、過去の施策についてどのように評価しどのように数字を積みますのか、注視する必要があります。
産業部門や運輸部門も含めた全体での大幅な底上げが必須の中、住宅建築部門で大多数を占める既存建築物の省エネ化なしに達成できるのか、疑問です。
しかし、個人・法人所有の財産に負担を強いて改変を義務付けるのは、どう考えても難しそうです。
既存公共建築の断熱改修や創エネ改修は視野に入りそうです。
住宅建築部門で強制力を発揮しやすいのは、やはり法適用や指導しやすい新築物件でしょう。
建築物の総量に対して圧倒的少数の新築物件で、高い効果を上げようとすると、その基準設定はかなり高いものになると予想されます。
まずは排出量の多い大規模・中規模建築はZEBが義務化されるのでは。
ZEB(住宅でいうZEH)は、高気密高断熱建築 + 高効率機器の導入で省エネを実現し、最低限排出されるCO2は同量をビル内でのエネルギー創出分で補い、CO2排出の総量をプラマイゼロにするビルを指します。
住宅も、大手ハウスメーカーにはZEHが義務化される可能性も少なくないでしょう。
全新築物件のうち戸建の注文住宅の割合は小さいのですが、業界全体がZEH化に流れたら、注文住宅も同じくZEHがスタンダードになっていくと考えられます。
つまりこれからは新築住宅=ZEH=ゼロエネルギー住宅の時代になりそうです。
通常、大きな方針が示されてから法整備までは数年、その後の施行にも時間がかかりますが、近い将来に家づくりもカーボンニュートラルの時代に入ると思われます。
ZEBとZEHが新築のスタンダードになることは、再生エネルギーの生産量が飛躍的に増えるということ。
住宅や建築業界だけでなく。国のエネルギー計画にも影響を与える大きな流れになる可能性もあります。
影響はまだこれから、今後の動きから目が離せません。
著者:アーキシップス京都(建築家・設計事務所/京都府)