《想いを受け継ぐ》
湖西地方の民家の改修です。
お父様の思い入れが濃く詰まった住まいの、庭に面して最も良い位置に置かれたお座敷は日常的にはほとんど使われず、日々の生活は片隅に追いやられていました。冬の寒さは厳しく、耐震性にも不安の残るものでした。
建築主の方は生活の改善を望みつつも、お父様の思いの丈がこめられた住まいに手を加えることへのためらいと板挟みになって随分と長く悩んでいらっしゃいました。
けれどもそのお座敷を遺物の如く凍結保存しますよりも、ここでの日々の暮らしを能動的に活き活きと継続していくことこそが、住まいを豊かに継承し、結果的にはお父様にもよろこんでいただけるもの思います。和室にも大胆に手を加えた形で住まいの再構成を提案させて頂きました。
お座敷は仏壇をそのまま残し、天井と欄間とでにつながる仏間と居間とに緩やかに二分します。床の間と床脇・書院の壁は取り払って食堂~台所へとL字型につながる居間となりました。折れ曲がりに位置する食堂は2階の床を取り払って吹き抜けとして、水平方向だけでなく垂直方向へも拡がりをつくります。北向きに閉ざされていた旧台所は、居間・食堂越しに庭にもつながるのびやかなキッチンとなりました。
お座敷を整えていた建材や造作の数々は極力再利用し、新たな持ち場を得て息づいています。書院に用いられていました細やかな細工の書院障子は居間と食堂との間仕切りの要となりました。
長年家族の一員として生活を共にしてきました室内犬と、工事着手直前に保護された子猫への対処として腰周りをタイル張りとして、壁にもモダンなメリハリが生まれました。床暖房とペットとに対応したフローリングは赤みを帯びたものです。
内外ともに木材に塗られていました弁柄を今回も受け継ぎ、紅色を基調とした住まいは艶やかな装いとなりました。
食堂と居間とを区切る紙障子です。元の住まいの床の間書院に用いられていました書院障子を再利用しました。書院障子は欄間部分は和紙を張らずに抜けを演出し、4枚の紙障子は和紙を食堂と居間と双方から互い違いに張って、裏表を感じさせないようにしています。
食堂です。 左手の模様入りの摺りガラスの扉が内玄関につながります。 ドアノブは猫が開けられないように握玉としています。 壁の腰部分にもタイルを張って犬猫対策としています。 一見漆喰塗りに見えるところも犬猫が届くところはすべて艶消しの強化坂です。
台所からは居間・食堂越しに庭へも見通せます。
食堂から居間・庭側を見た様子です。 2階の床を外して吹抜としました。 上部から光が注ぎます。
食堂から居間・台所側を見た様子です。 紙障子と欄間が緩やかなつながりを醸し出しています。 弁柄の紅い塗装が艶やかです。 台所との間には軽食用のカウンターを設けています。
居間の飾り棚です。 もともとの床の間があった壁を撤去して食堂とつながりをつくり、 床の間は造作材を再利用して対面の壁に作り直して飾り棚としました。 ほぼすべてが再利用材です。もともとの加工跡により床と床脇の間口が逆転しています。地袋の襖は元の違い棚の襖です。
居間から仏間を見たところです。 年月を経て飴色になった天井板をいったん外したうえで再利用しました。 仏間とひとつながりの天井として拡がりを生み出しています。
居間から食堂を見たところです。 当初はここにお座敷の床の間がありました。
仏間から居間側を見たところです。 閉じつつもひとつながりの天井が一体感を生み出しています。
外観です。 外部は塗装補修などにとどめ従前の姿を継承しています。 複雑な屋根です。