兵庫県芦屋のクリニックで院長を勤めた歯科医から設計の相談があり、和歌山県白浜からほど近い田辺市に第二の人生を送る為の、歯科医院併設住宅の建築の計画である。
敷地は西側に南和歌山医療センターがあり、通り沿いは医療機関が集まっているエリアで、少し南へ行くと、田辺市美術館や新庄総合公園などの自然豊かなエリアが広がっている。今計画の診療科目を紹介すると予防歯科、矯正歯科、インプラント、歯周病治療、入れ歯、セラミック治療、ホワイトニング、口腔外科、根管治療など専門の診療内容が多岐に渡り、子どもから大人まで幅広い世代に来てもらうことを想定した歯科医院にしたいという要望だった。
まず考えたことは患者さんがこの歯科医院を利用するのに初めて訪れたときに、どういう感じ方をされるかをイメージした。患者さんが求めているのは怖くなく、リラックスできて、通いやすいそんなシンプルな環境を整えてあげることが一番ではないかと考えた。
一方施主は芦屋から田辺という環境が全くことなるエリアで一から歯科医院を開業することの意味を考え、患者さんが来やすい環境を整えること、シンプルに痛くない治療を行うなど、普段歯科医が当たり前にしていることを再定義し、それを経営の骨子とした。
また今計画ができることで、歯科医師として地域貢献をしていきたいという施主の思いもあるような計画である。建築の解として、歯科医院の経営理念と建築の解き方を合わせることで、この計画における建築の本質を浮かび上がらせることとした。
恣意的操作を排除した設計
怖い気持ちで治療を受けるのではなく、前面に広がる森への最大限開いたviewを見ながらリラックスした気持ちで治療する個室をまずは配置し、森を最大限確保することも同時に考慮し、他の個室も同様に配置していく。残りのスペースを歯科として必要なスペースとしてあてがうような配置検討を行った。二階は住居だが、一階の個室からセットバックさせた形状を二階の住居の外形とした。作りたいデザインを優先し、その中に治療スペースを設けるような解き方ではなく、治療スペースから、その他のものを決めていく演繹法のような解き方をすることで、恣意的操作を一切排除し、あくまでも患者さんの為の空間を最優先とした建築とすることで、患者さんが来やすく、何度でも通ってもらえるような歯科医院になるのではないかと考えた。
コントロールしない自然素材との向き合い方
外壁は杉の木張り無塗装とし、内装は構造用合板の仕上げとした。内外に木を使うことで、自然環境により馴染むような建築となるように配慮した。素材感が強烈に出る構造用合板をあえて使い、表面が一枚一枚異なる素材であるが、それが自然本来の姿として捉え、綺麗すぎない、コントロールしないことが自然の姿だと考え、バラバラであることが自然と捉えた。
更新を見越した断面計画
一階は歯科医院であるが、上の二階は院長の自宅であるものの、将来的には小児治療を中心とした歯科治療を行いたいという要望のため、二重床の納まりとし、将来用の配管振り回しスペースを確保し、今回の工事であらかじめ配管の立ち上げを行い、一階を営業しながらでも将来工事ができるように配慮した。大きなワンルーム空間となるように、構造計画を行い、将来の平面計画のフレキシビリティに配慮した計画としている。
患者さんが気軽に安心して何度でも訪れて来てもらえるような地域に根差した歯科医院になることを切に願う。