◼︎ツナグ・モノリス
エレベーター棟(以後、EV棟)新設を核とした診療所併用住宅のリノベーション計画である。RC造3階建、築45年の既存母屋は1階が診療所、2・3階が住宅になっている。
EV棟は建主の高齢対策として新設され、構造的に母屋から自立する。外観はスレート調の素材を下見板張りし、母屋と同化しない“石柱”のような表情で非建築的なスケール感を強調した。対して内観は、色調を上下階で区別し、移動の度に印象が変わるようになっている。
オブジェでなく、存在意義を持つ建築装置であるから過剰な形態操作は抑え、母屋との隙間に新しい空間を創造すること考えた。1階診療所の待合から見たEV棟を背景に緑と置石を配した坪庭や、周囲の高層化でプライバシーを損なった2階ベランダがEV棟と庇により再生されたこと、木目調タイルのベランダ材をEVホールまで連続させ、母屋食堂の空間領域を屋外に拡張したことなどがその成果である。
■築45年の住宅と家族、地域環境や街並景観を維持する建築装置
敷地は国道から続く近隣商業地域にある。最寄りの京急線金沢八景駅は近年、駅舎と周辺建物が再開発されて様変りし、敷地周辺でも大規模公営マンションの建設が進む。
東日本大震災以降、1981年の新耐震基準施行前に建てられた診療所併用住宅を見直す風潮が加速した。単に耐震の問題だけでなく、医師の代替りや高齢化といったライフステージの変化が後押しした。除去費用が高額なRC造では多くの場合、既存建築のリノベーションに落ち着くが、①本計画のように開発が進む地域で低層建築が建つ広めの土地を緑化した状態で維持することは、環境保全の観点からも意義深い。加えて②バリアフリー化して家族が住み継ぐこと、③街並が刷新され景観が変わる中で場所の来歴を残す建築が継承されることを考えると、この小さなEV棟が“ツナグ”ものは規模以上に大きいのではないかと考えている。
EV 棟全景。2~3階の住宅部分で生活する建主の高齢化対策として整備された
EV 棟側面。診療所は敷地面積726.31 ㎡の角地で、街並に開けた場所にある
エントランスはスロープ通路として、段差なくEVホールに到達できる
床はレンガタイル、手摺から下の腰壁はモルタル掻き落とし、天井は木格子の上に障子パネル
既存の植栽スペースを敷地としたので、植栽に代わる景観として石の坪庭を用意した
外観はスレート調の素材を下見板張りし、母屋と同化しない“石柱”のような表情で非建築的なスケール感を強調した
2階のEVホールの床はベランダの木目調タイルを張伸ばし、天井には庇から連続するトップライトも設けた
庇をかけたことで、第二の玄関として活用されるようになった
ベランダからEVホールまで木目調の床タイルを用い、食堂床との連続性、室内空間の広がりを図った
家族が住み継ぐことを前提に、食堂と接続するキッチンも床を張替え、IHにした他、仏間等も再デザインしてリノベーションした