リタイア世代のすまい方のポジティブな可能性を探すプロジェクト。
新天地への移住に際して、後から移る者として地域に貢献し開いていたい、という夫婦の考えのもと、元幼稚園教員の夫人の子供文庫、器楽奏者の夫の簡易ホールを中心に開放性のある住まいが求められた。
しかし、新しい場所で開放と両立するプライバシーも必要ではないか。また、長い時を過ごす空間が豊かであるよう、多様性と展開性のある場をつくり、それが同時に、広く/奥に竹林や小川を抱く奥深い地形を活かすよう考えた。
動物が安心する場所は、見晴らしが良くかつ身を隠せる場所だと聞く。
大屋根の下で矩のついたてが隙間を空けて緩やかにつらなる空間、これを貫く斜めの軸の奥にプライバシー、手前に開放性が高まるよう機能を配置し、軸の左右に交互に重なる矩のついたてが自然な隠れ処にもなる。矩の隙間から、光や緑と地域の顔・風景とが行き来し、豊かな共存が立ち現れるだろう。
・新天地への移住に際して、後から移る者として地域に貢献し開いていたい
・子供文庫と簡易ホールのある家、ホールは音響を良くするために勾配+非対称の屋根
・抜けのある空間にしたい
・庭も地域の公園のように柵を設けず開きたい
・その他は一切お任せする
緑のアプローチを抜けて、玄関に向かいます。 左手には子供文庫の出入りにもなる縁側が来る人を迎えます。
地域に公園のように庭を開きたいというご希望に沿って、道路から開放的なアプローチとなっています。 スリットからは子供文庫の本の紹介コーナーがのぞきます。
子供文庫の出入りにもなる縁側は集いの場に。
高い天井が迎えます。
子供文庫は少し床が下がり、座ると体が隠れる高さで子供に安心感と居場所を与えます。
玄関から子供文庫に向かうと、一面の本棚が迎えます。 スリット前の棚は通りがかる人への紹介コーナーになっています。
奥まで20m近い長手方向の抜けが、コンパクトな床面積でありながらも開放感と広がりを感じさせます。
器楽奏者のクライアントが小さなコンサートを行える簡易ホール兼リビング。 音響のために、勾配+非対称な天井としていて、 木の仕上げが音響的にも木管との相性がとても良いと喜んで頂きました。 地域の方とアンサンブルをするなど楽しまれています。
天井が高いため、人の高さの生活圏を効率的に空調する、特殊な床下全館空調を採用しています。 窓の下のスリットから吹き出しコールドドラフトを抑えるため、冬暖かくとても快適な環境です。 猫は一番気持ちのいい場所を知っています。
「矩」という直角の壁がオープンな空間に対して身を隠す守られた場所となります。 プライバシーを守る空間が、豊かに開く暮らしを可能にします。