日本のマンションでは、一般的に明るい南側にリビングを配置し、暗い北側には個室を置くことが多くある。しかし、この配置によって光や風の取り入れに部屋間での格差が生じていると感じた。そのことから京長屋の通り庭をヒントに南北に貫通した「通り部屋」という環境を作り出す空間を挿入した。通り部屋は、元々配置されていた南北の掃出し窓をストレートに貫通するように配置し、南側から北側まで風や光が直接通り抜けるようになっている。これにより、居室全体に光や風が行き渡り、より快適な環境が実現された。この環境を整える意識を住まいの中でより強く実感してもらうために、「通り部屋」の床を進行方向に目地を持ったフローリング、それ以外の床をタイル張りとしている。また、通り部屋は柔軟性が高く、二本の引き込み建具によってリビングや寝室の大きさを自在に変更できるため、時々の生活スタイルやニーズに合わせて空間をカスタマイズすることが可能である。住みやすさとは部屋の数や大きさなどの数字で決まるのではなく、体感して初めてわかる部屋の質で決まると信じて考えた住宅である。
①明るく、風の抜ける空間
②畳のある暮らし
③仕事ができるスペース
①通り部屋という南北を貫通する部屋によって、光や風を居室全体に運ぶ。
②ダイニングチャア兼ソファという位置づけでタタミコーナーを計画した。
③木壁の一部を書斎スペースとして活用した。
一般的なマンションの計画であれば北側は非常に暗い個室となるが、通り部屋から運ばれる反射光によって明るい寝室を作り出している。
このホワイトキューブはどの部屋にとも接する唯一の壁であるため、反射光の影響を一番受けると考えこの家全体の仕上げの中で一番白い色を採用している。
この空間の主体は光と風であり、それを作り出す通り部屋である。そのため人が行き来するための建具はなるべく主張がないようなデザインとした。
通り部屋に沿って配置された木壁はすべて収納となっている。奥行きは650mmに設定しており、服や季節もの、布団など家に必要なすべてを収納することができる、この建具も存在感を消して壁に見えように取っ手は付けず、マグネットラッチで押して開けるように設計している。
通り部屋の長さはこの家全体の奥行きであり、さらに窓の外の景色も含めると非常に視線が抜ける場所となっている。
通り部屋にはリビングの手前と寝室の手前の計2枚の建具が隠されており、その建具での仕切り方によってさまざまな日々の状況の変化の対応を試みている。また建具を閉めた状態でも乳半アクリルによって光が、上部のオープンランマによって風の抜けを確保している。
ダイニングテーブルは造作で作ることで脚2本で保持しており、空間の有効活用や掃除の楽さに寄与している。ソファ兼ダイニングチェアであるタタミコーナーの下部にはルンバ基地を配置している。意匠の統一性を確保しつつ機能にもこだわっている。
カーテンをあえて床まで長くすることで、広さを感じることができる。通り庭以外の床はタイル敷となっている。遮音性を持つ下地を組んでいるため問題なく使用することができる。(マンション規約によって異なります)
造作建具の取っ手を真鍮見切りと合わせ、空間に溶け込ませている。
ダウンライトではなくモザイクタイルに間接照明の光を反射させて光量を確保している。意匠性と共にふと目が覚めてしまった夜でも、目が冴えることなく再び眠りについてほしいという願いが込めた。