端正に南北に延びた細長い形状と道路との段差は、心地よく外部を取り入れるための要素をいくつか含んでいた。間口が狭い短冊型の形状は、それをどう工夫して使うかの選択しか、残されていなかった。内部では、それぞれの場所から自分のいる位置を認識することができ、外部からも遮断していないものに感じられ、閉鎖しないプライベート空間となる。閉鎖するのではなく、都市の中で「素顔」で生活したい。住む人にとっても、道行く人にとっても、ほっとするのびやかな「家」を私たちは目指した。
冬の新月に近い日に5本のアカマツを切り出すことから始まった。その中で一本、二股の木が選ばれた。3 本の梁を浮かせ公会堂のヒマラヤ杉に続くよう二股の木の自然木を木立のように配置した。ここで家の象徴でもあり、家族の変わらない意志の表現にもなった。道路との80cm の段差は、キッチンからみえる駐車場の上に中庭、デッキの風景を生み出す。この木立とデッキの風景を見ながら生活することを考えた。北に建物を寄せ、内部からの視線は斜め上の南の空に向かう。道行く人の視線は、圧迫のない軽い材質のポリカーボネートやルーバーにより分散し、気配のみ伝える。そして視線は自然と二股の木へと向かい、生活を想像する。
車庫上のデッキは、将来畑となる生活の舞台でもあり、日々の生活の中で眺めながら過ごすことになる。
南に向いて暮らすこと、あたたかい答えが残された。
南側から新月切りの二股の木が見えます。そして車庫を挟んだ中庭です。
リビングにも地元産の赤松が使われています。
キッチンは既製品のキッチンをアイランドキッチンとして成立するように工夫しました。
敷地の段差を利用して抜けを作りました。