名古屋市の住宅街に計画したこの住宅は、200㎡の広さを持ちながら、境界線沿いに隣家が建っているため、隣地からのプライバシーの確保を前提とした住環境が求められた。大きな家族の要望である「駐車場3台」、「デッキのある庭」、「効率的な家事動線」を満たすように東西方向に広げつつ駐車場となる北側と、庭になる南側のスペースを確保するところからスタートした。プライバシーを含む住環境、要望を考慮した結果、外観で現れている通り、キッチン棟(外観写真右)、リビング棟(中央)、水廻り棟(左)の3棟構成とした。東西の隣家からの視線や音はキッチン棟、水廻り棟で遮り、南の隣地、北側道路からの視線や音は玄関との間に設けた黒板壁や可動間仕切りを持つタタミコーナーによってリビングを守っている。またリビング上部には個室を持つ2階があり、リビングは東西南北と上の文字通り包まれたプライバシー性の高い空間となった。
リビングを自由で快適な空間とするために配置されたキッチン棟と水廻り棟。そこへのアプローチはリビングの壁にも現れてくるため、アーチ開口という象徴性を持たせた。これによりこの住宅のアイコンとして働きつつ、守ってくれている存在に敬意を持って「くぐる」という行為の視覚化ができたと考える。そのアーチ開口内部はリビングよりも明度の高い仕上げを施すことで、自然と視界がアーチ奥側まで伸び、横幅としての拡がりを感じることができる。南北は一体的な使い方、統一の仕上げとし、床や天井目地の助力も借りて、南北に通る視覚的な直進性による拡がりを感じ、陽の光や風の抜けを行うことができる空間となっている。
ご家族の理想の暮らし方や人柄からコントロールできないことに気をかけて生活するのではなく、自由に伸び伸びと暮らしてほしいと感じた。プライバシーに対する距離感と方法、それに対する関係性と住宅としての拡がりを慎重に考えたことで、この家では気兼ねなく伸び伸びとした暮らしが実現できると思っている。
① 駐車場が3台分欲しい
② デッキのある庭が欲しい
③ 効率的な家事動線
① 北側に駐車スペースを確保する
② 南側にデッキと庭のスペースを確保する
③ 玄関から2方向アクセスを作り、買い物をした際はパントリーへ、普段はWICに直行できる動線になっている。
④ ①、②で北、南にスペースを設けたことにより東西に膨らんた平面。隣家からのプライバシーを守るために、リビングをキッチン棟、水廻り棟でサンドイッチさせる平面とした。
黒板壁は北側からのプライバシーを守りつつ、子供の作品ギャラリーや連絡網として コミュニケーションの役割を持つ。
床、天井の目地の助力を借りて直進性のある南北の拡がりを感じる。
キッチンのアーチ越しにリビングダイニングを見る。
タタミコーナーは可動間仕切りによって、個室化することができる。
アーチにはレースのカーテンがついており、 アーチ内部を隠したい場合でも、光や風の共有を行うことができる。
外観を邪魔しない跳ね出しのポーチと北側の光をリビングに入れる玄関ガラス扉。
ダイニングから洗面を見る。アーチ内部はリビングよりも明度の高い仕上げとしており、 自然と視界に入ることで拡がりを感じることを意図している。
脱衣室だけはレースカーテンではなく建具で仕切っている。 普段は開け放しにして暮らしている。
家事動線や北側の光の回り込みを考慮して2方向アクセスすることができる玄関。
庭スペースは隣地からのセットバックにより、プライバシーの面でも効果がある。
アーチ開口に憧れがあったが具体的にこうしたいというイメージがなく、家を建てるにあたって「なくてもいいもの」でした。
しかし初めてプレゼンを見た時のアーチにとにかくわくわくしたことを覚えています。
単なる見た目のデザインではなく「リビングを守る東西のアクセスに敬意として『くぐる』という行為を可視化させたかった」と聞いたときは、アーチなしの家づくりは考えられなくなりました。生活を始めてから1年経った今でもアーチがこの家の象徴だと思っています。
南北の拡がりもそうですが、リビングダイニングが木や黒板の濃い色であるのに対して、外側は壁も天井も床も白の別空間で、くつろぐ空間と何かをする空間とでメリハリと拡がりを日々感じています。