大阪市内に建つ築100年超の町家の改修です。
道路に面した厨子二階の南側外観は、黒漆喰塗に虫籠窓が穿たれ、木の格子窓が残る出格子はナグリの駒寄せが囲み、玄関も潜り戸付きの大戸と大阪町家の特徴がよく残るものです。内部も北側の前栽に面して南北に座敷が並び、その間仕切りの欄間は住吉大社を彫ったものです。窓にもゆらぎのある古硝子が残るなど、長い年月を大切に住み継がれてきたものでした。
しかしながら経年のうちには柱や壁も随分と傾き、床の不陸も目立つようになってきました。隙間風や暑さ寒さなど街なかでの現代の暮らしには我慢を強いるものです。
改修に際しては、この住まいが長年保ってきた町家の魅力を最大限保全し継承することを第一に、現代の都市での快適で安全な生活を実現することを目論んでいます。
通りに接する南側にはあえて生活部分を配せず、北庭に面する座敷を板張りのLDKとし、2階床を一部取り払い高天井として採光を補っています。通りに面する小間は仏間として生活部分との緩衝ゾーンとしました。
セルロースファイバーによる断熱で家全体を覆い、気流のない輻射式冷暖房はその大きなパネルが町家の趣きを損なわないよう慎重に組み込む一方、古民家の適性に合わせてダンパーや土壁パネルで耐震性を向上させました。
長年使われてきました造作や建具にも手を加えたり設置位置を移すなどして再利用し、それらは新たな輝きを得てよみがえった住まいの歴史を誇らしく物語っています。
外観:大阪の町家の特徴をよく伝える外観を保全しました。
玄関内部:土間ばかりの拡がりに床を張って玄関を整えました。正面飾り棚にはかつての座敷の書院障子と欄間を移設し、左手の障子と舞良戸は高さを補正してそのまま使用しています。
居間食堂:かつての続き間の和室は縁側も取り込んで、前栽に面する居間食堂としました。 畳敷きの床を若干下げてフローリングに替えるとともに、長押も外して内法高さを上げて、頭を打たない高さとしています。床の間の側壁は書院障子が設えられていましたが耐震壁としてふさぎ、その書院障子を玄関に移して飾り棚に用いました。
居間食堂:もと広縁の北側の前栽に面する木製の窓はゆらぎのある古硝子とともに保全し、その外側にアルミサッシュを設けて性能を確保しています。
居間食堂:従前の床の間・床脇を残して洋間化しています。床脇はテレビ置き場とするため天袋は残し、その下の違い棚は外して反対側の壁に移設しました。
居間食堂 高天井:南側が道路に面し出格子の窓でプライバシー上も開放できず明かりが不足しますので、2階の床を一部外して高天井とし、西側上部から明かりを取り入れています。
居間食堂:右手奥の紙障子は玄関に通じるものです。輻射式冷暖房の右手には床脇にありました違い棚を移し、左手は台所につながるカウンターです。幅も広く天井までの高さのある輻射式冷暖房は出っ張らないように納めて極力存在感を薄めました。気流を生じず穏やかな冷暖房です。
食堂:正面のカウンターの奥が台所です。縁側を食堂に取り込み、古い木製の硝子戸と欄間は再利用しています。硝子戸の取付位置を部屋内にずらして補強の柱を加え、庭側にはアルミサッシュを加えています。
居間から仏間側を見たところです。八帖の和室のうち四帖は居間に取り込み、残る道路側の四帖を仏間として、プライバシー上も緩衝ゾーンとしています。もともとは座敷と縁側との間にありました硝子障子を造り変え、硝子部分に和紙を張って紙障子としました。一間半のものでしたので両側にも紙障子を建て込んで二間間口にしています。
仏間障子夕景:木彫り欄間は住吉大社をモチーフとしたものです。左に太鼓橋、右に鳥居と高燈籠が彫られています。硝子障子は上部の組子はそのまま残し、ガラスを和紙張りに替え、中央部分は新たに組み直しました。