「日本のデンマーク」と呼ばれた愛知県安城市の田園地帯が広がる長閑な風景の中で、伸び伸びと子育てができる2世帯の為のお住まいです。「場所性に調和する佇まいの建築を」という要望が住まい手から最初に伝えられた言葉でした。周辺には田園風景の中にある納屋や倉庫、ビニールハウスなどの農業に従事する働く建築物群があり、それらは機能に徹しただけの素形でありながら、連続する架構の美しさ、透過性のある開放感、日射調整や作業のための軒下空間など、理に適った機能と美を持ち合わせた田園風景に調和した佇まいの建築でした。それら過不足ない素形の機能美をお手本として、人が住まうのに必要な風雨を凌ぐための屋根を先ず計画しました。そして納屋のような無柱空間をつくる事ができるトラス構造の骨組みを考え、 最小限の部材で7650mmスパンを飛ばした大きな一枚屋根を掛けました。 その大屋根の下で、家族が程よい距離感で住まう為に、間仕切壁で緩やかに区切り、さらに南北を貫く三和土で仕上げた土間を設け、内外の曖昧さと連続性、建物で分断された南北の庭を機能的に繋ぎました。また、居間と食堂から延びる外部空間には、南北それぞれ室内と同じ大きさの濡れ縁を設け、屋内外が積極的に繋がる居場所を設けました。 居室の天井は全てひとつの大屋根で繋がるため、温熱環境は建物全体による自然の重力換気と、既製品のエアコンと床下のダクトファンを併用したオリジナルの全館空調システムを採用し、何処に居ても一年中温度差がほぼ無い室内空間を実現しています。
田園風景の中に浮かび上がる、大屋根と大開口のガラスが印象的な建物の外観。
南側の庭には濡縁がありリビングから直接、庭まで出る事ができる。軒は深く、夏の日差しは室内に入らない深さがある。
雑木の庭の中にある、石敷きアプローチにより玄関に辿り着く。玄関の先は田園風景が透けて見える。
玄関でもある通り土間は、床を三和土(たたき)仕上げとし、沓脱石には地元産の宇寿石を据えている。
通り土間を挟んで、左側には寝室と子供室を、右側にはLDK、水廻り、母の部屋がある。
青空と田園風景が視界一面に広がる、ダイニングキッチンスペース。毎日の食事がアウトドア気分で楽しめる。
キッチンスペースと、通り土間を挟んだ対岸にある寝室の和室スペース。和室の入口は、茶室のにじり口のように低い開口部で繋がる。
建物の中央には、各スペースにアクセスできる東西を貫く通路があり、個室の天井はすべて大屋根と繋がり、家族の気配を感じながら視線の抜けも、風通しも良い、面積以上の広がりを感じることができる。
大屋根の下には、南の庭と、北の庭の外部とも積極的に繋がりながら、落ち着ける居場所があちらこちらにある。
開口部で切り取られた南の庭と、8帖ある濡れ縁で外部と繋がるリビングスペース。