北部幼稚園は、緑豊かな丘陵地に建つ認定こども園です。保育のテーマは「水と土と太陽を」。園庭での遊び特に大切にしています。子どもたちは日の光の下、裸足で園庭を走り廻り、水と戯れ、地面を掘り土と格闘します。保育の中心に位置するこの園庭空間に対して、室内での生活拠点となる保育室はどうあるべきでしょうか。両者の空間的な関係をどう築くか、それが設計のテーマとなりました。
園庭で手に入れた感動や発見を自分のものにするためには、場を移ってもその思いが継続することが大切です。実際、体験と連動した創作など保育実践では大きな成果を上げて
います。その充実のため園庭と保育室とのつながりが重要になります。一方、保育室内でこどもたちが心を深められるような落ち着いた気持ちになるためには、園庭の喧噪から十分距離を確保する必要があります。
「つながる」ことと「離れる」こと。この2つを実現するため、園庭と保育室との間に、巾の広い「ぬれ縁」空間を組み込みました。機能上は外部廊下だが、低く深い軒で包むことにより、園庭、保育室とも違う独自の場と感じられるようにしました。各保育室を「ぬれ縁」に向かって開放的に並べることで、保育室と園庭とのつながりが切れないようにしつつ、「ぬれ縁」の巾を十分に広げることで、両者の適切な距離を生み出しました。保育室を雁行させて「ぬれ縁」にコーナーや広場など新たな活動の契機となるスペースをつくり出していきました。
水平に連続する「ぬれ縁」に対し、各保育室はそれぞれ別々に屋根をかけて、一つ一つが独立した自分の家と感じられるようにしました。高窓からの自然光が明るく室内を照らし、天井の低い「ぬれ縁」との違いを際立たせた。保育室内に天井の低いアルコーブを設け、子どもがこもれる居場所をつくりました。
外観は家々が町並みを形づくるように、一つひとつ独立した屋根をもつ保育室が連なり、園庭に対して賑わう佇まいを生みだしました。心を解き放ち、心を落ち着かせる。そんな毎日の中で、子どもたちの内面が豊かに育まれることを願っています。