●経過
クライアントは2人の小さい子供(計画当初は1人)がいる若い夫婦です。
当初から「生活の背景となるシンプルな空間」というテーマをもっており、それを実現する為に、当初は土地を購入して新築で家を建てることを考え、様々な雑誌や展示場を見に行ったりしていましたが、デザインと予算の面で納得いくものがありませんでした。しかし、当初のテーマだけは妥協したくないという思いがとても強い夫婦でした。そんなある日、実家の隣に建つ今は使われなくなった「倉庫兼作業場」に住むことは出来ないのだろうか?とふと思ったのがきっかけでした。
というのも数年前まで夫は、この「倉庫兼作業場」で今は亡き父親と共に金属加工の仕事をしていたので、父親との思い出が残る愛着ある建物でした。しかし一方で「倉庫兼作業場」として使っていただけあって、改修前の建物は床には油染みがあり、柱や梁はむき出しのままで、当初のテーマ以前に「住む場所になり得るのだろうか?」という疑問がありました。
●設計趣旨
子供が小さい時は、「家族みんなで一緒の時間を過ごしたい」というクライアントの考えに基づき、2階の生活空間はスーパーワンルームの空間としています。
スーパーワンルームといってもすべてを見渡すことが出来るリニアな空間ではなく、なんとなく家族の気配が感じられる空間です。
中心にブース状の箱を入れ、その箱をくりぬいて作られたリビング、キッチン、そして収納があり、ブース状の箱の上はロフトになっています。ブースのまわりがダイニングやベッドスペースになっています。子供はブースの周りをぐるぐると駆け回り、夫はロフトの上を隠れ家のように使う予定です。これらの空間は大きな傘のような天井の元で、何となく一体感を感じることが出来る空間になっています。
現状(2008年)はスーパーワンルームですが、子供の成長に合わせて「2階に2部屋の子供部屋」と「1階に主寝室」を作ることを予定しています。
今は亡き父親と共に働いた場所が、これからは自分の家族と共に暮らす場所へとなり、親子3代に渡って使われる建物になっています。