設計依頼を頂く数年前、たまたまこの住宅地を訪れることがあり、手入れのされたゆったりとした庭と歴史を感じさせる趣のある佇まいが印象的でした。ところが、近年はそうした良好な環境の維持も難しくなってきているようで、急激に無味乾燥な街並みへと変容しつつあることが見受けられました。そうした中、この住宅では少しでも街並みに潤いをもたらす計画ができればと考えました。
法定面積の上限いっぱいの計画ではあるものの、建物を一つの塊ではなく、小さなボリュームの集合体としてできるだけ量感を抑え、建物周囲にたくさんの余白(=庭)を生み出し、緑に包まれる住宅を目指しました。外壁は、緑の背景としてしっとりとした表情となるよう濡れ色がかった暗灰色の左官仕上としています。
宅盤が道路よりも1m程高いため、1階は70cm程の半地下形式としホームEVを設置することで全体をバリアフリーの計画としています。半地下形式の1階は”庭との親和”、主階となる2階は”緑に包まれ浮遊する住処”、眺望の良い3階は"望楼"として、各階ごとに特性に応じたテーマを持たせています。2階は回遊性を持たせたプランとすることで、普段は2階だけでも快適に生活できる計画としています。
道路側からの外観。 あまり余裕のない間口幅に対して2階を2方向にオーバーハングさせることで、アプローチ動線を確保しつつ、建物手前に1台分の駐車スペースと、その奥に並列駐車のできる2台分のビルトインガレージを設けています。
隣地との間にアプローチ庭を設け、しっとり落ち着いた印象のアプローチを計画。 床石は、白河石の荒摺仕上。
外部の床・壁・天井の仕上が連続する玄関。 アプローチから玄関までは暗灰色のしっとり落ち着いた仕上げとする一方、玄関から内部へ踏み入ると白の空間へと切り替ります。 正面扉の奥は玄関クローク。
中庭の大開口に面したスペース。 暗灰色の外壁が適度に光を吸収することで内部には柔らかな光が届きます。
落ち着いた印象の和室。 畳に腰を下ろせば、ちょうど目線が庭(地面)と繋がります。隠し框の木製サッシが視線の抜けを良くし庭との繋がりを強めます。 地面に埋まる腰壁は、地層に見立てた杉の柾目を積層した板張り仕上。
リビングへのブリッジ。 両面とも全面ガラスで緑の間を空中浮遊するような渡り廊下を計画しています。
軸を45°傾けたリビング。 軸を傾けることで隣家との距離感を遠ざけるとともに、庭木の緑が育ち、やがて緑に包まれることで、住宅地の中でありながら軽井沢の別荘のような居心地を目指しました。
露天風呂のような2階浴室。 浴室を建物自身で囲み、外からの視線を遮ることで開放的な浴室にしています。 浴槽部分は全面天窓とすることで露天風呂感覚を味わえ、中庭から伸びるコウチワカエデが、紅葉を含め、四季折々の姿を楽しませてくれます。