六甲南麗の住宅街、西宮松ヶ丘。阪神間の中でも特に自然や地理的条件に恵まれた歴史ある街である。
明治より、実業家や芸術家、文化人らにより培われてきた『阪神モダニズム』という独特な文化が息吹くこの地域の一角に敷地はある。
当初の計画は和風二階建て二世帯住宅であったが、打合せの結果、同敷地に親世帯、子世帯とを各々建てる事になる。今回は親世帯の為の数奇屋をベースとした趣きある空間を提案する事となった。
外観~周囲への調和~
和風の構え・佇まいというものは、そびえ立つ権力を誇示する構え方では無く、周囲にも自然にも調和していけるような穏やかな佇まいこそが粋である。
千利休の思想に学び軒の高さを抑え、続く下屋根の軒先、外塀の笠木へとリズミカルに、かつ自然に周囲の風景と調和していく。
本門は無駄な装飾を省き、質素に、シンプルに構成し、訪れる客人に内部空間へのイメージを連想させ、気持に高揚感を与える。本門をくぐれば、御影石背板による石畳となっており、行の構えとした。
内観~庭屋一如~
日本の風土気候は、一年を通して変化に富んでいる為これとどう向き合うか。
建築自体の内外が常に交流するような深い関係、居間を中心に縁台、その先の主庭園より光を反射させ内部に取り込む。低く抑えられた下屋根の軒先が、その関係性をより曖昧にする。
居間より北を望めば、勾配天井に設えた桧の垂木が緩やかに視線を庭園へといざなう。視線の先には古くより家族を見守ってきた松の木が、時を越え、場所を変え、尚も変化していく家族を見守り続けるだろう。南北の一連の流れの中に、風を光を迎え入れ、内外の境界線は徐々に薄らいでいく。