美しい景色、温かい自然光。
大開口住宅の魅力と設計における注意点
藤原慎太郎さん・室喜夫さん
藤原・室建築設計事務所

2023-06-17更新
美しい景色、温かい自然光。大開口住宅の魅力と設計における注意点 - 藤原慎太郎さん・室喜夫さん/藤原・室建築設計事務所
藤原・室建築設計事務所

屋内から望む美しい景色、外部から注ぐ温かい自然光。 大開口の開放的な住宅・別荘を数多く実現してきた建築家、藤原 慎太郎さんと室 喜夫さん。 豊富な実績、培ってきた経験をもとに、大開口住宅の魅力や工夫、リスク・注意点などを伺いました。

開口部を大きくとった住宅・別荘を多数実現されていらっしゃいます。お施主さんのご希望を踏まえてのことかと思いますが、「大開口」の家にはどのような魅力があるのでしょうか。

藤原さん

大開口は広がりを生み出します。 大きな開口を設けることで、より自然との一体感を家の中で体験することができます。 大きな開口から外と繋がることができれば、より自然と一体感が増すことでしょう。

この大開口による体験は、視覚にも豊かさをもたらします。 山や海、新緑の景色や雪景色など、四季折々の美しい風景が家の中に広がります。 外部の環境を取り込むことで、敷地の良さを最大限に生かす。 自然のうつろいや変化は飽きることなく、心地よい居住空間を作り出すことができます。

環境、自然の魅力を家にいながら体験できる。

藤原さん

大開口は、リゾートとは異なる魅力も実現します。 リゾートでは他の人に気を遣うことも多いですが、一軒家では、周りを気にせず楽しむことができます。

自然との一体感、豊かな視覚体験、リゾートにはない自由、敷地の良さの最大活用といった魅力をもたらします。 家の中に自然を取り入れることで、心地よい暮らしを実現することができるでしょう。

南河内の家 – 藤原・室建築設計事務所

素敵ですね。憧れます。
一方で、デメリットやリスク、注意点などもあるかと思います。 企画・設計を行う際に大切にしていること、気を付けていることをお聞かせください。

藤原さん

注意点としては、大きく、構造、温熱環境、プライバシーへの配慮、メンテナンス、建築コストなどが挙げられます。

構造については、大きな窓や開口部は、建物の構造に大きな負荷をかけることがあります。 壁の強度や支持構造に影響を及ぼし、補強が必要となる場合がありますので、設計段階で構造検討することが重要です。

温熱環境への影響も大きいです。 大開口は熱の伝導や透過性が高くなりますので、冷暖房の効率が低下し、エネルギーコストが上昇する可能性があります。

また、夏季には日射熱による過熱が問題となる場合もあります。 適切な断熱材や遮熱対策、適切な窓の選択が必要です。 建築地の気候や開口部の方位により具体的な対策や検討は異なりますが、日射熱の遮断や適切な換気設備の導入を検討しましょう。

プライバシーへの配慮も重要です。 大開口部は内部の視線や外部からの視線の問題を引き起こす可能性があります。 近隣の建物や通行人からの視線を踏まえ、窓の配置やブラインド、カーテン、プライバシーフィルムなどの使用を検討し、必要に応じて適切な対策を講じましょう。

大開口の魅力を得るためには、様々な点を踏まえて設計する必要があるのですね。

藤原さん

そうですね。 他にも、建築コストやメンテナンスコストも考える必要があります。

大開口部の導入は通常、追加の費用がかかります。 大きな窓や開口部の設置には特殊なフレームやガラスの使用が必要となる場合があり、それに伴うコストが増加します。 先にお話した点を含め、全体の予算やコスト効率を考慮し、バランスを取る必要があります。

メンテナンスも、大開口部は容易でない場合があります。 ガラスのクリーニングや塗装の保守など、アクセスが難しい場所にあるため、手間や費用がかかる場合があります。 メンテナンスの負担や頻度を考慮し、適切な設計を行う必要があります。

鳴門の家 – 藤原・室建築設計事務所

建築費用、維持費を踏まえて考えていくことが必要。その通りですね。限られた予算の中で魅力的な家を実現していくことが大切ですね。
具体的なお話も伺いたいのですが、例えば貴社の事例の「景色の家」が個人的にとても好きなのですが、お施主さんのご希望、ご要望をどのように実現したのか、また構造や温熱環境、コストなどの課題、その解決などをお話しいただけないでしょうか。

藤原さん

「景色を楽しむ家」の敷地は、池に面していました。池の向こうには小高い丘があり、眺望の抜け感は抜群です。

しかし、敷地の両サイドには家が迫っており、両サイドの家の存在を感じさせずに、リゾート感を感じさせることが大事だと考えました。 そのような考えから、敷地の両サイドに各個室や機能を備えた部屋を配置。中央にLDKを配置することで、両サイドの家の気配を消しています。

景色の家 – 外観

建物中央のLDKの天井は、通常より高さのある3メートル、景色を望む大開口も同じ高さで設けています。 中央の大開口は両側に引き戸が引き込まれる特注設計としており、全開するとリビングがあたかも屋外に居るような開放的な雰囲気になります。

リビングからはデッキエリアにすぐ出られるようになっていて、家族や友人たちが集まって、バーベキューやプールが出来るスペースになっています。

景色の家 – リビング

LDKと個室の間にはガラスのサンルームを複数設け、角度によってはガラスに景色が反射も加わり、外部の景色が家の中に入り込んでいるかのようなイメージを実現しています。

窓から少し距離のあるダイニングやキッチンから見た景色は、景色を切り取ることで、家の奥まで景色が飛び込んでくるようにみえるよう設計しています。

夜は室内のサンルームに照明を当てることで、グランピングしているかのような雰囲気になり、冬などの寒さのある季節でも、リゾート感を楽しめるようになっています。

景色の家 - キッチンから望むサンルーム

また、大開口の向きが西側になっているため、夏場の日差し対策として、庇を設けたりガラスの性能グレードを高いものにしています。
さらに別に雨戸を設けることで、台風などの際にも対応できるように配慮した設計になっています。 構造的には構造計算をすることで、地震や風も計算したうえで、大開口を実現しています。

家の中からの景色を建物で区切ることで、景色の奥行き感を感じさせることができます。 建築の設計には敷地を生かす手法が沢山あります。

ありがとうございます。屋内からの素敵な眺望には、様々な計算、配慮から成立しているのですね。
最後に、これから大開口住宅を考えている方へのメッセージをお願いします。

藤原さん

大開口のある住まいにおいて、目の前にある自然がプライベートな空間に飛び込んでくる体験は、リゾートとはまた違った開放感や特別感をもたらします。 リビングは、家族や友人たちが自然と集まる空間となり、特別な時間を共有することができるでしょう。

大開口を設けるには、敷地選定や周囲の状況、周囲が将来どのようになるのか、予算や構造、法規などの様々な事を想定しながら進めていく必要があると考えます。 ご自身が良いと思われる建築家に相談しながら、プロジェクトを進めると、きっと満足できる住まいが実現できると思います。

ありがとうございました。
私自身、開放感抜群の空間、家にいながら自然を感じられる大開口の住宅に憧れており、とても参考になります。他にも多様な住宅を実現してきていらっしゃいますので、また別の観点でお話を伺えると嬉しく思います!

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