お住まいになるご家族に合わせ、様々な二世帯住宅、三世帯住宅を手掛けてきた建築家、宮原 輝夫さんに、多世帯住宅において大切なこと、設計・建築における考え方や注意点をお伺いしました。
私の設計事務所は設立して来年で25年になります。
設立前のゼネコンでの修行時代から始まり、様々な建築と携わりました。
特に住宅系の設計を多く手がけてきたのですが、その中でもちょっとしたきっかけから、二世帯や三世帯同居の住宅(集合住宅)を設計する機会が多々ありました。
今回はそれらを設計した経験から感じたことをお話ししたいと思います。
建築の設計を行う際に常に念頭に置いていることがあります。
それは単に、ご要望にお答えしたり、問題を解決するのではなく、まだ施主の皆さんも気付いていないご要望や問題を発見したいということです。
どちらかというと精神的な要素であることが多いかもしれません。
物理的な機能や性能を高めることはとても重要ですが、精神的な機能性アップや問題解決はそれ以上に重要だと考えています。
今まで設計した住宅の多くで発見があり、施主の皆さんの生活をよりよく変える為の新たなアイデアとなって来たように思います。
今回お話しする二世帯、三世帯の住宅ではどのような隠れたご要望、問題から生まれるアイデアがあったでしょうか。
ひとつめの隠れた問題は「家族は何個か?」です。
まずは普通の親子の例を考えてみます。
親子は当然家族です。
ですが、成人して社会人となっている子供と同居する場合、家族は一つでしょうか?
親と子供は別の家族としてカウントした方が良い可能性もあります。
これは間取りを決める際にとても大きな影響を持つ問題で、初めに確認したい内容です。
もし二つの家族なら玄関も二つになる事もありますし、キッチンや浴室の個数にも影響してきます。
最も判断が難しいのは子供が大学生などで、現在は一つの家族で後に二つの家族になる可能性がある場合です。
このタイミングですと施主の皆さんも二つの家族になる可能性すら認識していない事が多いように思います。
私の場合はある問題や課題が生じた際に、一つの結論を出すグループの範囲が一つの家族だと考える様にしています。例えば大きな買い物をしたり、旅行の行き先を決めたり。
二つ目の問題は「仲良くしていける方法を考える」事です。
家族の関係性によって、どのようなかコミュニケーション方法が良いかが決まってきます。
とても残念なことではありますが、昔のように単純に大きなリビングが解答になることは殆ど有りません。
結果は様々ですが、例えばリビングを二室準備して利用される方を分けてみたり、例えば各自の個室を二室づつ持っていただき、リビングに近い方を開放的に、遠い方を閉鎖的にして家族とのコミュニケーションをしやすくしたり、仲の良い家族との間に個別の動線を設けたりすることも。
写真の住宅は二つの家族のリビングの間に、子どもの遊び場空間を作った事例です。
最も必要なことは、リビングは1つとか、平等の広さとか、一律に考えてはいけないということかもしれません。
最後の三つ目は「一人になれる場所は必要かどうか」を考える事。
家族と一緒の時間も大切ですが、一人の時間もとても大切なものです。
以前、とても仲の良い姉妹とそのご家族(それぞれの夫と子供)の二世帯の為の住宅を設計する機会がありました。
よくご一緒にキャンプに行かれるそうで、「新しく作る家でもキャンプしているみたいな家がいいなぁ」などとご意見も出るほど。
打合せを通じて、玄関は別々でもリビングも繋げて大きなリビングとして使えたり、来客の時にはリビングの貸し借りも検討されていました。
私達は様々なスタディの後、基本的に分離された二戸の住居とした上で、折れ戸を用いて閉めたり開けたり出来る接続式のリビングと、二家族のうちたった一人だけが使用できる「絶対的な」一人の為のスペースをセットで提案しました。
一人の為のスペースは当初不要と思われた様ですが、「DENスペース」と名付けた後はしっくりきたご様子で実際に作りました。
後日談として、実際にお住まいになった後、折れ戸を開けて合体させ大きなリビングとして使われることは少ない様ですが、一人のための「DENスペース」の方は大人気の場所になったそうです。
どんなに仲良しの家族でも、やはり一人になれるスペースは必要なのだと再認識した事例でした。
全てのご家庭で当てはまるわけでは無いと思いますが、「家族の数、範囲を決め、仲良くするための方法を考え、一人になれる場所を検討する。」私たちが二世帯、三世帯の住宅を設計する際に考える、個人と家族の関係性を構築する方法です。
とても普通だけど大切な事だと思っています。
この作業を通じて出来上がった、二世帯、三世帯といった多世帯同居の家を、私達は「拡大家族の家」と呼んでいます。
総核家族化を経た後の大家族のあり方を今までとは違った建築で支えたい。そんな思いで名付けたものです。
皆さんの家づくりの少しでも参考になりましたら幸いです。