「海外のホテルや、おうちって可愛いのに、日本のおうちは、何故かあまり可愛くないでしょう?」計画当初、こんな会話があった。設計を生業とする者としては、耳の痛い話である。しかし理解はできる。
キーワードは、幸せなおうち。汚れても、古くなっても、可愛いおうち。具体的には、オランダのアパートメントのような家を目指すことになった。
1階はサロンとキッチンスタジオ。サロンとは人が集う所。生活の場であり仕事場でもある。接道が北向きなので、南に小さな裏庭がある。2階は小さなキッチンとリビング。3階は寝室と水周りである。
コンロの火元は5口。料理に必要だから。ガスオーブンレンジと冷蔵庫はアメリカ製。この容量が必要だから。スタジオの麺打ち台は一段下がっている。力が一番伝わるように。洗い場は小さくても、バスタブが大きい方が気持ち良い。窓はアルミ製より、汚れても味のあるスチール製。階段は明るくなくて良い。外壁は初めから汚れているようなものが良い。
クライアントは女性タレントで、料理研究家だ。タレントとは才能の意。流石にその感性というか、直感は鋭いものだと感じた。色々悩んだ末に出した答えは、いつも実に筋が通っていたのである。
メンテナンスフリー、高気密高断熱、ユニバーサルデザイン。全て重要なものである。しかし、それだけでは建築への愛情は生まれない。 どうでも良くはないが「こうしたほうが良い」より「こうしたい」のほうがずっと大切なものだと思うのである。
心から好きなものに囲まれた家は、素晴らしいものになると思う。ただ、「心から」というのが重要で、それを自分で理解し、表現するのは案外難しい事かもしれない。
だとすると、それらを整理整頓するのが私達の仕事。これは、時間に縛られない雑談によってのみ、可能になると思うのだがどうだろうか。
人が集まり、古くなってもかわいい家
素焼きレンガやスチールを使い、古びても味がある素材を多用
大人数が一度に入れるキッチン。床暖房も入っている
天井も高く開放的。クライアントがそろえた小物が映える。
使うシーンをイメージし使いやすさを求めたオーダーキッチン
左手扉の中にプライベートミニキッチンを配置。写真奥の窓からは中庭を見下ろせる
オランダのアパートメントにありそうな中庭。キッチンから出入りし、ハーブを育てる
都心部にありながら外空間とつながるバスルーム
表通りに面するベッドルーム
詫びを施した玄関扉。ピンコロタイルのカーポート。枕木を置いたアプローチ。アンティークポストが目を引く。カフェと間違われたこともある。
手入れを怠ってもそれが趣を感じるような中庭。ライトアップもできる。
施主支給で取り付けたコンセントスイッチ
クライアントの声 ~抜粋~
我々が守谷さん興味を持ったのは、作品ではなく、HPに記されていた「好きなもの:海」というプロフィールでした。
そして、お任せすることを決めたのは会話の中や作業から伝わってくる誠実さでした。
いわば、それだけの理由であり、自分たちの直感に掛けたとも言えます。
しかし、守谷さんに出会うべき方、守谷さんに出会えば、より住み心地の良い家を 手に入れられる方が、常に確実に守谷さんと出会えるかと言えば、必ずしもそうではないでしょうし、 我々のように直感だけで決める方ばかりでもないかと思います。