大阪市内の下町。マンション再開発が進み、ビルの谷間になった住宅+事務所+倉庫の建て替え計画です。クライアントは長年この地で化粧品関連会社を営むご夫婦とお母様。古い木造家屋を必要に応じてつぎはぎし、内のような外のような不思議な場所をうまく活用しながら、職住が混然一体となった暮らしをされていました。リノベーションも検討しましたが既存建物の状態が悪く、終の棲家として安心して住める性能を確保するためには大規模な工事とならざるを得ないことから、解体して新築することとなりました。
ご夫婦とお母様の生活時間帯や動線の棲み分け、来客対応、商品の搬出入や保管など複雑に絡み合った条件を、ヒヤリングとプランニングを繰り返しながら紐解き、最終的には細長い敷地形状に沿った細長い平屋の中に、目的に応じた小さな部屋がぎっしり詰まった工具箱のような建物になりました。その上にシンプルな三角屋根を架け、ビルの合間を縫って日光が注ぐよう各部に天窓を穿っています。前面道路側は防火壁を斜交いにせり出す事でオフィスとしての存在感を主張しつつ大きな軒下をつくり、内外が曖昧な生活を引き継げる土間としました。東西に生活動線と事務所動線を分け、それぞれ長手面を収納やデスクとして活用しながら奥の居間へと繋がります。日中、ダイニングに腰掛けて過ごす生活のためいわゆるリビング空間は省き、皆で調理できるようにキッチンやその周辺の空間を広めに計画。居間は家庭菜園や植栽を楽しめる小さな庭へと続いています。
都市の只中に深く根を下ろし、自分たちに合った暮らし方や働き方が自然と身に付いたご家族の新居は、アスファルトの割れ目から芽を出す野草のように、再び力強く自由な住処となりました。
屋根・外壁はガルバリウム鋼板。
俯瞰。細長い敷地に細長い建物を置く。敷地西側(写真右手)は斜線制限はかかるものの私道負担外のためアクセスに使えない条件。
ファサード近景。土間の使い方に応じて表情が変化する。職住が混在した建築は自ずと住居なのかお店なのか事務所なのか、用途が曖昧な立ち姿になる。
建物の北に空けた小さな屋外スペースは、ダイニングキッチン直結の家庭菜園。
左手が事務所。右手が寝室。中央の収納を両面から使う無駄のない間取り。それぞれ奥の居間でつながっている。
斜めに張り出した庇は防火壁として、事務所のアイコンとして機能しつつ、庇下にやや囲われた雰囲気を生んでいる。
居間。普段からダイニングテーブルで寛ぐ生活のため、いわゆるリビングは無い。
西外壁面は全面収納。書類、絵画、食器、家電、お仏壇、ヘルメット、スケボーなど、暮らしにまつわる様々なものが居心地の良い場所を見つけて佇んでいる。
シンプルな木架構。登り梁形式を避けてコストを圧縮。建具は枠を回さず、梁に直接留めた鋼材をレールとして使用している。
玄関庇正面。通りに対して庇を斜めに構えることで、単調な街並みに変化が生まれている。