天王寺駅の南に広がる阿倍野。明治から戦前にかけて、天下茶屋駅の東斜面には池の周りに料亭や茶室を拝した風光明媚な公園がありましたが、今では往時の面影はほとんどなく、小高い丘の起伏に沿ってマンションや大小様々な住宅がひしめき合っています。そんな路地の奥に奇跡的に残されていた大きなお庭と邸宅をあるご家族が引継ぎ、次の世代へと命をつないでいく僥倖に恵まれました。建物は幾つかの棟からなり、複雑な入母屋架構や大断面の太鼓梁、無垢の分厚い床板など、貴重な材料で丁寧につくられた形跡が多く残っていましたが、何度か大規模なリフォームが施されて母屋と蔵が棟続きとなり、更に応接間や離れが増床されて問題の多い状態になっていました。計画にあたっては和室の設えや古い無垢材・架構の持つ力強さ・大らかさと、現代的な生活や性能とが歪み合うことなく共存共鳴できるような在り方を心がけ、母屋の中央付近に天井が高いLDK、それを挟むように玄関・水回りを配置しながら内部・外部にいくつかの回遊性を仕掛け、スムーズな動線計画としました。式台や床板は慎重に取り外し、鉋掛けして階段や造作材に転用。障子や框戸も多くは補修し、配置を組み替えて再利用。つぎはぎリフォームで辻褄が合わなくなっていた増築部分や離れを撤去して、防水・構造耐力・採光を無理のない状態へと整理しました。
古いアルミサッシを高断熱サッシに全交換、外壁は焼杉と漆喰。アプローチは増築された小屋を除去し、既存の庭石を再利用して組み直し。外構は植栽と石組みを再構成。
増築により母屋と無理に接続され雨漏りを生じていた蔵を切り離し、元の姿に復元。手前は除却した建物の基壇を活用したウッドデッキ。
間取りを変更して新たに設けた玄関。引き戸・ガラス欄間は補修して再利用。
キッチン・ダイニングの先に蔵がつながる間取に改編。蔵は趣味室として利用。大きなアイランドキッチンは家具製作。ガスコンロは直列3口。 蔵の切り離しに伴い、母屋の端部ワンスパンを継いで屋根形状を変更。漏水していた複雑な入母屋からシンプルな切妻へ。
大きな気積の中に水廻り・収納を納めた箱を置く。天井はヘムロック、壁はドイツ漆喰、床はチークのヘリンボーン、建具はオーク、家具はチェリー。和洋の素材を適材適所に組み合わせ。レンジフードは梁から吊り下げ支持。 東西に長い既存建物の特性に合わせて、居間はダイニング・キッチン・リビングの順に繋げたDKL。リビングはさらに8帖の和室へ続く。右手の書院障子は2階から移設したもの。
ペット室を兼ねた多目的室な土間。床は色むらのある敷瓦。式台は既存玄関からの転用。モモンガ・イモリ・うなぎ、その他小動物たちのための造り付け棚。
2ボウルの洗面室。対面するマンションからプライバシーを守りつつ、高窓から桜の老木を望む。フロアキャビネットは中央にダストボックスを格納。足元はロボット掃除機のドックを兼ねて少し浮かせている。
洗面からランドリーを介して浴室へつながるバスルーム。来客時は引戸を閉じてプライバシーを守る。外遊びの汚れを落とせるようにウッドデッキ直結として床はサーモタイル貼り。
廻り階段の隅に出来る余白を利用したニッチ。リノベーションに際して不要になった分厚い床板を加工し蹴上・踏板に転用。
2階和室。押入れをワークスペースとロフトに改造。縁側は高断熱サッシに交換した後、既存の欄干を復旧。