外部環境を適切に取り入れることは、内部環境を豊かにしてくれるが、東京の高密度の住宅地ではプライバシーの確保と開放感の狭間で、それの繊細な調整が必要になる。敷地は南側前面道路以外を隣家で囲まれていて、特に北側は集合住宅の開口部がこちらの敷地を見下ろすように並んでいる。このような環境の中、自らの壁面でプライバシーを確保しつつ、中庭を中心に一階からR階まで立体的に渦を巻き、自然に回遊できるような平面計画にした。中庭だけでなくルーフバルコニーも植栽され、住まい手は内部を移動する過程で、プライバシーを気にすることなく、開口部から立体的に光や風の変化、緑の豊かさを感じることができる。
住まい手による機能的与件を論理的に分析した上で住宅を計画し、今までの生活とこれからの生活を違和感なく繋ぐことは当たり前であると考えている。 我々が重要視しているのは、住まい手がより豊かな身体感覚や精神状態を手に入れることである。そのために動かない建築を動くモノ、即ち住まい手自身や自然現象との関係で設計している。具体的には、移動の過程で刻々と変化するシーケンスを豊かにするために場所の接続や切断の仕方を検討し、光と影が織り成す情緒的空間を素材やその組み合わせから考えている。手掛かりにしているのは、私自身が旅先等で経験した、その場所とセットになった感覚や感情。
この住宅の美しい経年変化や自然なムラを期待して、無機的な工業製品や既製品を排除して自然素材を使用しつつ、職人による人為的な操作も排除したいと考えていた。現代の日本において適正な価格で、自然素材や職人の仕事だけで住宅をつくるのは難しい。外壁では職人の手業ではなく、材料の水分含有量の誤差によって自然なムラをつくり出し、ファサードの石積壁はコストをおさえるために、このために切り出した石と商品化され規格化された石を組み合わせている。